
こんにちは、せせらぎ房です。「やじろべえ」というおもちゃがあります。左右のお守りの大きさを変えたり、位置を変えたりしながら、バランス取るおもちゃです。今回の発明原理は、「やじろべえ」のバランスの取り方に似ている「等ポテンシャル」という考え方です。
この記事のポイント
- TRIZは技術革新を体系化したロシア発の発明理論で、課題解決のヒントが得られる。
- 「等ポテンシャル」は、エネルギーや負荷を均一化して効率を最大化するTRIZの原理の一つ。
- ITサービスでは、CDNやクラウドのオートスケーリング、チームの作業分担などに応用されている。
TRIZの「等ポテンシャル」の原理とは

TRIZとは、旧ソ連の技術者ゲンリッヒ・アルトシュラーによって体系化された「発明的問題解決理論(Theory of Inventive Problem Solving)」です。世界中の特許や技術発展のパターンを分析し、「どうすれば効果的に技術課題を乗り越えられるか」を法則化したものです。
TRIZには40の発明原理や、矛盾マトリックス、進化のパターンなど多くのツールがあり、それぞれが技術革新や問題解決のヒントを提供します。その中の一つが今回のテーマである「等ポテンシャル(Equal Potential)」です。
TRIZの中での「等ポテンシャル」は、物理的またはエネルギー的な差を解消し、無駄を最小化して効率を高めるための原理です。電気回路で電圧差がなければ電流が流れないように、システム内のポテンシャル(エネルギーや負荷)の差を解消することで、バランスの取れた効率的な状態が実現されます。
ITの分野では、リソースの平準化、データやトラフィックの負荷分散、人的作業の偏りの解消といった形でこの原理が応用されています。

それでは「等ポテンシャル」の考え方を利用したITサービスの実例をみていきましょう。ITサービスの新しいアイデアを考えるヒントになればと思います。
CDNによるデータ配信の等ポテンシャル化

事例:コンテンツデリバリネットワーク(CDN)
インターネット上で動画や画像、Webコンテンツを多数のユーザーに届けるには、アクセスが特定のサーバーに集中するとレスポンスが悪化します。ここで活用されるのがCDN(Content Delivery Network)です。
CDNは世界中にキャッシュサーバーを配置し、ユーザーに最も近いサーバーからデータを配信することで、全体の負荷を分散します。これは、リクエストの集中という「ポテンシャル差」を解消し、どこからアクセスしても等しい速度でサービスを受けられる状態、すなわち「等ポテンシャル」を実現する典型例です。
クラウドのオートスケーリング──リソースの均一化

事例:AWSやAzureのオートスケーリング
クラウド環境では、アクセス量の増減に応じてサーバーの数を自動調整する「オートスケーリング」機能があります。これは、あるインスタンス(仮想サーバー)だけが高負荷にならないよう、全体に負荷を分散させる仕組みです。
たとえば、あるWebアプリで夜間にアクセスが急増した場合でも、自動的に複数のサーバーを立ち上げて処理を分担します。これにより、負荷というポテンシャルが均等に分配され、システムの応答性と信頼性が保たれます。
チーム内の作業分担も「等ポテンシャル」

事例:アジャイル開発におけるワークロード分散
IT開発チームでも「等ポテンシャル」の考え方は重要です。特定のメンバーにタスクが集中すると、進捗が遅れたり、品質が不安定になる可能性があります。
アジャイル開発では、タスクボードや進捗チャートを使いながら、各メンバーが同程度の負荷になるように調整することで、プロジェクト全体がスムーズに進行します。これは人的リソースの「ポテンシャル差」を最小限にし、チームパフォーマンスを最適化する取り組みです。
データベース負荷の均一化──リードレプリカの導入

事例:読み込み専用レプリカで読み込み分散
Webサービスでは、データベースの読み込みリクエストが集中してパフォーマンスが低下することがあります。この問題を解決する手法の一つが「リードレプリカ」です。
リードレプリカとは、マスターデータベースの内容を複製し、読み込み専用として機能させるサーバーです。これにより、読み込みリクエストを複数のレプリカに分散させることができ、1つのDBに負荷が集中するのを防ぎます。データベースの等ポテンシャル化が、スケーラビリティと安定性の両立を可能にします。
まとめ:TRIZ×ITで見える新しい設計視点
「等ポテンシャル」というTRIZの原理は、一見すると物理学に関するアイデアのようですが、ITの世界においても非常に実用的です。負荷の偏りやリソースの集中は、多くのサービス運用においてボトルネックとなる課題ですが、「等しく分散させる」ことでそれを解消できます。
CDNやクラウドオートスケーリング、作業分担、データベース構成など、等ポテンシャルの応用は広範囲に及びます。TRIZの視点を活用すれば、IT課題への創造的かつ体系的な解決策が導き出せるでしょう。