
こんにちは、せせらぎ房です。今回は少し前に流行した人間中心設計の手法としてのデザイン思考です。もともとはデザイナー思考、デザイナーのように課題設定を共感・観察から行うという趣旨だったようです。
問題解決を行うためのアイデアが欲しい場合に、どうしても解決方法を中心に考えがちですが、画期的なアイデア、特にマーケットに広がるアイデアは、課題の質に依存します。課題抽出の方法を、その場における人たちと同じ立場・気持ちになりながら考え、実際に試しながら作り上げることがデザイン思考です。
この記事のポイント
- デザイン思考の核心: 人間中心の視点に基づいた、革新的で効果的な問題解決アプローチ
- デザイン思考のプロセス: 共感、定義、発想、試作、テストという明確な5つのステップで構成
- 成功事例と幅広い応用: AppleやIDEOなどにおけるデザイン思考の考え方
デザイン思考とは:人間中心のアプローチ

デザイン思考(Design Thinking)は、従来の問題解決とは一線を画す、人間中心のアプローチです。ユーザーのニーズや感情に深く寄り添い、共感することから始まるこの手法は、より本質的で持続可能な解決策を生み出すことを目指します。
もともとはデザイナーが用いていた思考プロセスですが、その有効性が認められ、現在ではビジネス、教育、医療、福祉など、多岐にわたる分野で活用されています。デザイン思考は、複雑に絡み合った問題を段階的に解きほぐし、革新的なアイデアを創出するための強力なフレームワークを提供します。
デザイン思考の5つのステップ:実践的な問題解決の道筋

デザイン思考は、以下の5つの段階を経て進行します。
共感(Empathize)
- 目的: ユーザーの視点に立ち、その経験、ニーズ、感情を深く理解すること。
- 活動: インタビュー、観察、アンケート調査などを通じて、ユーザーの潜在的な課題や欲求を探ります。
- 例: スマートフォンなどの製品開発で、ユーザーが既存のデバイスをどのように使用しているかを詳細に観察し、隠れた不満や要望を発見します。
定義(Define)
- 目的: 共感段階で得られた情報をもとに、解決すべき問題を明確に定義すること。
- 活動: ユーザーの課題を特定し、具体的な問題 statement(課題定義)を作成します。
- 例: GEとIDEOが病院の患者体験改善プロジェクトで、患者が抱える不安や不便さを特定し、「患者が安心して治療を受けられる環境」という課題を定義しました。
発想(Ideate)
- 目的: 定義された問題に対する多様な解決策のアイデアを創出すること。
- 活動: ブレインストーミング、マインドマッピング、スケッチなど、自由な発想を促す手法を用います。批判はせず、多くのアイデアを出すことが重要です。
- ポイント: 質より量を重視し、斬新なアイデアも歓迎します。
試作(Prototype)
- 目的: 発想段階で生まれたアイデアを具体的な形にし、ユーザーによるテストを可能にすること。
- 活動: 紙、モックアップ、簡単なソフトウェアなど、低コストで迅速に作成できるプロトタイプを作成します。
- 例: Airbnbは、初期段階でウェブサイトの簡単なワイヤーフレームや、部屋の写真を貼り付けただけのプロトタイプを作成し、ユーザーの反応をテストしました。
テスト(Test)
- 目的: 作成したプロトタイプを実際にユーザーに試してもらい、フィードバックを収集・分析すること。
- 活動: ユーザーの反応を観察し、インタビューなどを通じて具体的な意見や改善点を聞き出します。
- ポイント: テストの結果に基づいて、プロトタイプを改善したり、新たなアイデアを生み出したりする反復的なプロセスです。
デザイン思考の例

IDEOとGEによる医療プロジェクト:共感が生んだ変革
デザイン思考は、医療分野においてもデザイン思考を応用し、大きな成果を上げています。特に、GE Healthcareが行ったプロジェクトでは、CTスキャンを怖がる子どもたちのために、スキャン装置を海賊船に見立てたデザインを開発しました。これは、子どもたちの不安を軽減し、医療体験をポジティブなものに変えることを目的とした取り組みです。患者とその家族の感情に深く共感することから生まれたこの画期的な解決策は、デザイン思考が単に製品開発にとどまらず、社会課題の解決にも有効であることを示しています。
Appleのデザイン思考的な側面
- 徹底的なユーザー中心主義: スティーブ・ジョブズの時代から、Appleはユーザーのニーズや体験を深く理解し、それを製品開発の中心に置いてきました。これは、デザイン思考の最初のステップである「共感」と深く合致します。
- シンプルさと直感性を重視: Apple製品の際立った特徴はそのシンプルさと使いやすさです。これは、ユーザーが製品をストレスなく利用できることを追求する、デザイン思考の重要な側面です。
- 細部へのこだわり: Appleは、製品の見た目だけでなく、内部構造や操作感など、細部にまで徹底的にこだわります。これは、ユーザー体験全体を向上させるというデザイン思考の考え方と一致します。
- プロトタイピングと反復: Appleは、製品開発の過程で多くのプロトタイプを作成し、テストを繰り返しながら製品を改良していくことで知られています。これは、デザイン思考の「試作」と「テスト」のプロセスそのものです。
- 部門を超えた連携: Appleのデザインチームは、エンジニアリングやマーケティングなど、他の部門と緊密に連携しながら製品開発を進めます。これは、多様な視点を取り入れ、より良い解決策を生み出すというデザイン思考の考え方を反映しています。
身近な事例:家庭での問題解決への応用
デザイン思考は、ビジネスの現場だけでなく、私たちの日常生活にも応用できます。例えば、忙しい朝の準備をスムーズにするために、家族それぞれの行動を観察し、ボトルネックとなっている課題を特定します。
- 共感: 家族一人ひとりの朝の行動、感じている不満や要望をヒアリングします。
- 定義: 「朝の準備時間がバラバラで、家を出るのが遅れる」という問題を特定します。
- 発想: 役割分担の見直し、準備時間のタイムライン作成、持ち物チェックリストの作成など、様々なアイデアを出します。
- 試作: まずは仮のタイムラインを作成し、実際に運用してみます。
- テスト: 運用後の感想や改善点を聞き取り、タイムラインを修正していきます。
このようなプロセスを通じて、家族全員が納得できる、より効率的な朝の過ごし方を見つけることができるでしょう。

まとめ
デザイン思考は、単なる問題解決の手法ではなく、共感力と創造力を最大限に活かすためのフレームワークです。AppleやIDEOとGEの共同プロジェクトが示すように、その応用範囲は広く、さまざまな利用シーンが考えられます。